就任から一年を振り返って
- 山梨大学医学部消化器内科
- 4月15日
- 読了時間: 10分

2024年11月より山梨大学消化器内科で働かせていただくようになり、1年4か月以上が経過しました。この期間を、臨床・教育・研究・地域医療の観点から振り返ってみたいと思います。
臨床に関して
臨床では、日々多くの患者さんを外来、入院でご紹介いただいています。この場を借りて、御礼を申し上げます。入院業務では、山梨大学消化器内科では現在大学病院へ入院されている7~9%の割合の患者さんの診療に当たっています。外来業務では、非常に長い間お待ちいただいている患者さんが多かったため、がんセンター外来を別枠で設けるなど、早期に受診していただけるように、治療が遅れることがないように努めております。更なる改善を現在行っており、あまりにも待ち時間が長い際には、大学の関連病院でも大学からの派遣医師が診療し、早期の大学病院での治療を可能とするシステムを構築しようとしております。
山梨大学消化器内科の臨床の特徴として、肝臓、胆膵、消化管の三つのグループに分かれて診療を行っていますが、どの疾患においてもバランスよく患者さんをご紹介いただけていることが、まず挙げられます。そして、それぞれのスペシャリストがしっかり配置されており、弱い分野がないことが挙げられます。特に得意としている分野をご紹介いたします。
肝疾患診療においては、入院治療の中心となるのは肝硬変、肝細胞癌治療です。肝硬変に関しては、私が現在、日本消化器病学会、日本肝臓学会から2026年秋に発刊予定の【肝硬変診療ガイドライン】の作成委員長をしていることもあり、特に力を入れて診療を行っております。肝細胞癌治療は、山梨県で治療数は群を抜いております。肝細胞癌の手術・カテーテル・穿刺・放射線・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬すべてを用いて集学的治療を行えるのが本院の特徴です。また、近年増えてきている脂肪肝に関して、脂肪肝外来を有し、専門的に診療を行って高い治療効果を得ている特徴があります。この脂肪肝対策は単に肝疾患進展予防ばかりでなく、心血管病変や乳がんなどの発症予防にも重要な意味合いを持ちます。
胆膵診療においては、膵癌、胆管癌、胆嚢・胆管結石などに伴う胆嚢炎、胆管炎を中心に、高い検査・診断・治療技術を有しております。特に、胆管ステントの留置は10年で3倍の伸びを呈しており、毎週多くの患者さんに入院加療を行っております。また、特に膵癌の早期診断には力を入れており、併せて研究面でも膵癌克服に向けた新たな研究の動きを始めております。こうした取り組みもあり、近年当科での膵癌患者さんの予後は改善しつつあり、引き続き努力を重ねてまいりたいと思っております。
消化管診療においては、食道癌、胃癌、十二指腸腫瘍、大腸癌を中心に診療を行っております。最も得意としているのは、低侵襲な癌への内視鏡治療であるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)になります。特に食道癌、大腸癌に対するESD件数の増加は顕著で、ここ10年でそれぞれ3倍、4倍の数を行っております。治療難易度の高い十二指腸腫瘍の治療も積極的に行っており、数多くの患者さんをご紹介いただいております。更に、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の分野においても、県内で唯一、炎症性腸疾患専門医が在籍しており、高いレベルでの診療にあたっています。
当科ではこのような特徴を有しており、常に患者さんには安心して医療を受けていただけるように努力をしてまいります。
教育に関して
学生教育に関して、大きく見直しを行いました。4~5年生のBasic Clinical Clerkship(BCC:1週間)、Advanced Clinical Clerkship(ACC:3~9週間)において、より学生目線で実習を行っております。臨床上そして国家試験上重要な症例に関して、臨床情報、検査、診断、治療を簡潔にまとめた【症例集】や、各治療や用語などを一枚にまとめた【ワンポイント解説集】などを作成し、実習と組み合わせることにより、記憶が定着しやすい環境を整えました。また、時間はかかりますが、カンファレンスの際に一例一例学生・研修医の理解が深まるように、学生・研修医目線での解説を丁寧に加えるようにしました。更に希望制で5~6年生を中心に国家試験対策勉強会を2025年度は2回行いました。2026年も7月に行う予定としています。国家試験は通過点に過ぎませんが、教員も学生もしっかり意識しつつ、実習に取り組むことで、より臨床で押さえるべきポイントを明確化し、記憶の定着を図ることができ、活用すべきと思っています。
初期研修医には、重要な臨床症候をしっかり押さえるEPOC(卒後臨床研修評価システム)対策を行うことで臨床のレベル向上が図れるように、研修の充実度が上げられるように専任指導医を配置し、教育環境を整備しました。今年から、意欲のある学生、研修医、専攻医にはマンツーマンのエコー講座を開始します。エコーは侵襲性が低いため、学生、研修医でも意欲があればかなり上達できるはずと考えています。入門編から開始し、しっかりスクリーニングできるレベルまで到達できた方には、応用編も用意し、更なる技術の向上を目指します。胃カメラには独自のマンツーマン指導スキルを持っており、大学で思われがちな技術の遅れは全くなく、むしろ早く丁寧なのではないかと思っています。
入局後の先生には、豊富な症例があり日々忙しいながらも一例一例を大事にする姿勢を伝えています。日々の臨床、カンファレンスでは重要項目を積極的に伝え、貴重な症例はしっかり発表を行います。発表で終わりにせず、症例報告も英文で作成することを目指します。今年の入局の先生もしっかり全員英文まで仕上げ、投稿を行っています。一名は甲信越代表として、全国での消化器病学会総会で発表予定です。リサーチマインドも少しずつ持っていただけるように、研究での最新情報も意識して届けるようにし、また、若い医師ほどしっかり学会に参加し、最新知見を、わからないことがあっても聞いていただき、耳学問から育てていっています。
このように若手の教育重視に山梨大学消化器内科は大きく舵を切りました。学生時代からのシームレスな教育環境を構築することで、山梨大学にいることにより若いうちにしっかりした伸びしろを作り、その後の飛躍につなげる環境を作ります。大学の消化器内科だからこそできるハイクオリティな教育体制の構築、回ってよかった、勉強になったと思える環境を構築します。
研究に関して
ここ一年は、研究の立ち上げに明け暮れた一年であったと思います。研究は大学にとって極めて重要な領域です。山梨大学に異動して、臨床、教育と同様に重視しています。私の研究のバックグラウンドは肝再生研究にあります。そしてその過程を通して京都大学や英国エジンバラ大学で学んだ基礎研究のスキルばかりでなく、新潟大学では、学んだ基礎研究を臨床へと持っていくトランスレーショナルリサーチ、そして実際に臨床での治験を行い、治験でわからないことが再び出てくれば、再び基礎研究に立ち戻るリバーストランスレーショナルリサーチを行ってきました。消化器系の臨床研究を縦の糸とするならば、日本再生医療学会、日本細胞外小胞学会などを通じて、他領域の臨床の研究者、基礎研究者、企業、ベンチャーなどの方と横の糸の交流をもってきたことが私の特徴でもあります。
山梨に来て、どんな研究をしたいかと考えたときに、【臨床に立脚し、治療薬やマーカーなどを実際に目指す研究】【縦の糸と横の糸を駆使し、新たな医療を作る】【山梨大学の消化器内科だからできる世界で一番独創性のある研究を作る】【肝臓分野だけでなく、胆膵分野、消化管分野と共に一緒に発展できる研究領域を構築する】という事を考えました。山梨に来てから、これまでのつながりばかりでなく、新たな共同研究者との協力関係の構築にも努めました。AIスペシャリストとのマルチオミックス研究、工学部の先生との医工連携による肝臓へのDDS(Drug Delivery System)法の開発、最先端の機器を用いたプロテオミクス専門家との大量検体でのデータ解析を行うバイオマーカー探索、全く新しい発想での発がん機序解析、創薬ライブラリーを用いた創薬スクリーニングなどをそれぞれにここ一年で立ち上げ、AMED、科研費などの予算を獲得することができ、順調に動き始め、大学院生、各分野の先生方の努力で基礎データも少しずつ出てきました。一年後には研究発表が少しずつお披露目できるのではないかと考えています。しっかり発表をし、論文を書くだけで終わりにせず、知財を確保し、トランスレーショナルリサーチ、社会実装にもっていくことに、よりこだわりを持っていきたいと考えています。
学内でも多くの興味深い研究がなされ、研究集団、研究会として動いています。山梨大学医学部の代表研究である【GLIA】研究にも、末席ながら参加させていただいております。更にY-CAN(横断的な癌研究会)や分野横断的に創薬を目指す創薬研究会にも積極的に参加し、分野を超えた共通理解に努めております。いくつかの企業・ベンチャー企業との共同研究もスタートしました。山梨大学が重んじる【諸学融合】という言葉は私の研究スタイルに非常にマッチしていると思っています。臨床をしっかり見て、Unmet medical needsを抽出し、AIも駆使し、また専門家との高いレベルでのつながりを通して研究を遂行していき、医師働き方改革にマッチする、新しい時代のわくわくする研究スタイルを構築していきたいと考えています。
地域医療に関して
地域医療に対しては、しっかり貢献していきたいという並々ならぬ決意をもって臨んでいます。ここ一年は、地域の実情把握、地域の病院、患者さんの通院での距離感などを把握することに努めました。自ら県内各地のおおよそ主要なところを運転し、大学までの導線・距離感、各地の人口を把握いたしました。その中で消化器内科として核となる病院を作っていくことの重要性、人員の配置、そしてそのために行うべき専門医の取得へ向けての教育、今後始まる地域枠医師の地域での診療の義務化に備えた診療・教育体制の構築などを考えていきました。そして何よりも、山梨大学がしっかり県内の中心として、地域と共に臨床・教育・研究をしっかりやっていることを地域、学生、医師に理解していただけるように努めてきました。地域医療やそこを担う医師の積極養成を私の前任地の新潟県では県と大学がタッグを組んで強く関与して行っておりましたので、新潟県福祉保健部長の中村洋心先生に第30回山梨医学フォーラムの機会を利用して、【医師に選ばれる新潟県へ~挑戦と成果~】と題した講演をいただきました。新潟県の研修医、専攻医の現状や獲得に向けた取り組み、地域医療対策協議会の現状、地域医療構想の現状などをお聞きすることができ、地域医療の難しさと大切さ、そして県と大学の結びつきの強さの必要性を学ぶことができました。まだまだ、学ぶことが多いですが、地域医療を考えたうえで消化器内科は非常に重要な科であることは間違いなく、しっかり肝に銘じて行動をしていきたいと考えております。以上のようなことを考えながら、就任より一年を過ごしてまいりました。
必ず前を向き、どんなに小さなことでも【一日一進歩】を目指し、【Men and women for others with others】の精神で誰かのためになることを常に考えながら行動してまいります。リニア新幹線の高架橋も、着任後から少しずつ着々と出来上がっている様子を見てきました。今、教室も同じように少しずつ前に進んでいるなと思っています。リニア新幹線は山梨大学医学部の近くに駅ができます。そうするときっと大学のあるこの地も大きく変わっていくことでしょう。それと同じように教室も少しずつ進歩していきます。どうかこれからもご指導、ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
山梨大学大学院総合研究部医学域 内科学講座 消化器内科学教室 教授 土屋淳紀



